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RCカーデザイナーという仕事

金井が設計するRC(ラジオコントロール)カーは家電量販店で販売されているようなトイのRCカーではない。ごく一部の専門店でしか取扱っていない、RCカーのハイエンドモデルである。
排気量3.49cc、4万回転で2馬力を絞り出す模型用2ストロークエンジンを搭載した、全長約50cm、重量約3kgのバギータイプのレーシングカーで、専用のオフロードサーキットを最高速度100km/hで駆け抜ける代物だ。
このカテゴリーのマシンで戦う世界戦が1986年にフランスのグルノーブルで開催されて以来、2年に1回、世界各国で開催されている。毎回200名以上のエントリーがあり、1週間もの期間をかけて予選を行い、トップテンの10名で決勝を競う。
金井が設計するのはこのカテゴリーのマシンのシャシーでインファーノというブランドである。インファーノはこれまで実に8回のワールドチャンピオンを獲得している。金井自身も2000年にラスベガスの大会で初のワールドチャンピオンに輝いている。

最新モデル
1/8スケール ラジオコントロール 21エンジン 4WD レーシングバギー
インファーノ MP10 TKI2

IFMAR 1:8 IC OFF-ROAD WORLD CHAMPIONSHIP in Las Vegas

LEGENDARY HISTORY OF INFERNO

インファーノの歴史は私のレース人生そのもの

RC界の二刀流

「RCカーの設計とドライバーを兼ねるのは稀なんですよ。これも二刀流ですよね。」


図面を引き、部品を発注し、組み上がったマシンを持ってサーキットでテストを行い、レースにもエントリーする。ドラフターを操る指が、サーキットでは繊細な動きで送信機のスティックを操り、マシンを自在に操る。世界戦で決勝を戦うトップテンのドライバーが設計者を兼ねている人はほとんどいない。このクラスの多くのドライバーはシャシーメーカー、エンジンメーカー、プロポメーカー、燃料メーカーとスポンサード契約を結んでいるのが実情だ。そんな中、金井は実に30年以上も二刀流を続けている。

「速いマシンを設計するにはレースでのフィードバックが必須なんです。」


一番速いマシンを開発するのはとても難しく、レースでのフィードバックが必須となる。金井は二刀流だからこそ、レースでの経験が正確にフィードバックされるのだ。また、金井自身だけではなく、他のインファーノユーザーの声を現場で聞くことができるのも大事なところだ。コントロールスタンドに立った時はドライバー、他のインファーノユーザーと話を交わす時は設計者という二刀流を使い分けてきたことが、8回ものワールドチャンピオン獲得に繋がっている。

「製品を出してからが勝負。アフターサービスが大事なんです。」


フルモデルチェンジは6~7年、その間にマイナーチェンジを行う。製品を発売してからが勝負だという。製品をリリースしてからも、性能アップのためのオプションパーツや壊れた時の交換用パーツの供給体制に気を使う。そのために、現場(サーキット)でユーザーからパーツの入手状況までもリサーチを行う。たった一つのパーツが欠品しただけでもユーザーが離れてしまうことがあるからだ。

8度のワールドチャンピオンに輝いたメイドインジャパン

「速いマシンをつくること、整備性が良く部品点数を少なくすることに徹底的にこだわっています。」


世界戦で一番になるためには、なるべく少ない部品点数で高精度に仕上げられたパーツが欠かせない。日本の職人の技術は世界一だと金井は言う。図面では表現できない微妙なRとかは、職人さんと直接会って徹底的に詰めて製品化する。CAD図面のやりとりだけではできない世界があるのだ。日本の職人さんとツーカーの仲になれたのがポイント。修正が必要になった時に、すぐに会って解決できるのもメイドインジャパンのいいところなのだ。

「注目して欲しいのは8度のワールドチャンピオンはすべて異なった人物だということ。」


8度のワールドチャンピオンのすべてが異なった人物ということは、突出したテクニックを持ったドライバーに頼った勝利ではなく、マシンの優秀性こそが原動力であるという証明。ここに、もうひとつのインファーノの顔がある。

「レース用だけのワンオフマシンにはしない。頂点の技術はすべてのインファーノユーザーへ。」


ワークスドライバーが世界戦で使用したインファーノは、市販品そのものを使っている場合がほとんどだ。金井が優勝したラスベガスでのレースはスーパークロス的な派手なジャンプセクションが多く、着地で破損するマシンが続出。この時のインファーノが壊れにくいことが話題になり、他のチームからパーツを譲ってくれというオファーが殺到した。ライバルにパーツを提供することは通常ありえないが、レース用のスペシャルパーツではなく、市場にふんだんにある市販パーツを使用していたからこそ提供することができたというエピソードがある。

真似しない心

「他メーカーのマシンのテストドライブはやりません。」


このカテゴリーのメーカーは世界で約20社ほどあり、このうち7~8社がトップを狙えるメーカー。競争相手を徹底的に研究するというのはあらゆるジャンルで行われているが、金井は絶対にやらないという。それは、一度でも他メーカーのマシンをドライブしてみると良いところを覚えていて知らないうちに真似してしまうからだという。トップに君臨するには真似していてはだめで、常に独自で性能を追求しているそうだ。

レースに勝つために

「レース会場の住人になる。」


レース会場の住人になるというのはどういうことか。「すべては良い睡眠と食事のための不安要素を無くし、万全の体調でレースに臨めるようにするためです。約1週間、異国の地で生活しなければならないので、サーキットに近くて良いスタッフのいるホテル、日本食レストラン、スーパー、病院、ホームセンター等を把握し、さらにそこの人たちと仲良くなるということです。仲良くなると何かあったときに助けてもらえますから。」

「失敗を恐れない。」


部品づくりに悩んだら失敗を恐れずやってみるそうだ。レースの時も失敗を恐れて守りに入らず、決してペースを緩めることはしないそうだ。緩めることがミスに繋がるので、そのために練習とメンタルを鍛えているということだ。

「周りを圧倒するオーラを持つ。」


練習を重ねて自信をつけることで周りを圧倒するオーラを纏うことができるそうだ。オーラを纏ったドライバーはマシンの調子が悪くても神がかり的なドライブで勝ってしまうところを何度も目にしているという。

好きだから折れない、やり遂げることができる

最後に質問をしてみた。


「苦しいことのほうが多かったようですが、続けてこれたのはなぜですか?」


「このカテゴリーのマシンが時速100km/hで荒れたオフロードのストレートをカッ飛んでいく、3mほどの高さのジャンプをこなす。これって実は時速800km/hで走行し、24mの高さをジャンプするマシンを操っているのと同じ感覚なんです。1/8というスケールですが、視覚的にはすべての動きが8倍なんです。この非現実感をバーチャルではなくリアルに体験でき、レースでは参戦したみんなと共有できるところが好きなんです。この感覚が味わえる唯一のモノがRCカーでその中でもハイエンドのカテゴリーが好きなんです。趣味の世界の製品を扱っていますが、設計からレース、アフターサービス等、基本はビジネスなので苦しいことのほうが多いですが、好きなのと目一杯情熱をかけることができるので、決して折れることはないですね。あとは、会社と家族の理解を得られたこと、まわりに助けられてきました。」

「行き詰まったときはどうしてきましたか」


「駄目なときは負の連鎖になりがちなので、リラックスできるようにします。車のドライブと温泉ですね。実車のドライブは競争相手がいるレースではないのでとてもリラックスできます。これで負の連鎖をリセットできるんです。リセットできると解決策が見えてくるんです。」

中学生の時に近所のおじさんに中古のRCカーをもらったのがRCをはじめたきっかけ。その後、小遣いとアルバイトで貯めたお金で初めて自分のRCカーを手に入れた。工業高校の機械科を卒業後、ラジエターのメーカーで設計を行っていたが、3年後に金井のRCカーのドライビングを見守っていたオートモデルの会長から誘われて入社。以来30年にわたりRCカーデザイナーとして第一線で活躍。8回のワールドチャンピオンを獲得しインファーノブランドを築き上げた。自らも2000年にワールドチャンピオンとなり、RC界の二刀流として成功している。